「脂肪肝外来」の開設に向けて、打ち合わせをする野ツ俣和夫医師(左)と肝炎医療コーディネーターの橋本まさみさん=福井県福井市の県済生会病院
肝臓に中性脂肪が蓄積する脂肪肝は自覚症状がほとんどないが、脂肪肝炎や肝硬変、肝がんへと進行する恐れがあるという。飲酒習慣がなくても脂肪肝になる人が急増しているとして、福井県済生会病院(福井市)は4月から「脂肪肝外来」を開設し、肝がんリスクのある人を見つけ出して早期治療につなげる。専門医は「コロナ下の運動不足などで生活習慣病になり、脂肪肝の人が増える恐れがある」と警鐘を鳴らしている。【グラフィック】オミクロン株 最も多い症状は カロリー摂取過多や運動不足といった生活習慣が原因で、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD=ナフルディ)の患者は、国内で推定2千万人以上。そのうち25%は非アルコール性脂肪肝炎(NASH=ナッシュ)になり、さらに肝硬変や肝がんに進行する恐れがあるとされる。県済生会病院副院長の野ツ俣和夫・肝疾患センター長は「NASHは爆発的に増えており、NAFLDの1~2%は肝がんに進行するとのデータもある」と指摘。肝疾患が重症化すると黄だんや顔や体のむくみなどが出てくるが、それまでは自覚症状のない人が多いという。 専門外来の主な対象は、肥満や糖尿病、肝機能異常を指摘されたことのある人。かかりつけ医でエコー検査や血液検査などを行い、NASHの疑いがあれば専門外来に紹介してもらう。 同病院の内科に新設する専門外来では、フィブロスキャンと呼ばれる超音波装置で、肝臓が硬くなる「線維化」の程度や肝脂肪量を計測する。NASHや肝硬変の疑いが濃い場合は入院し、肝組織を採取して調べる「肝生検」を行う。NASHや肝硬変の確定診断に至った患者には、治験を含む投薬治療のほか、食事・運動療法を指導。心血管の疾患や他臓器のがんなど、合併症の有無も定期的にチェックしていく。 専門外来は週3回、野ツ俣医師ら肝臓専門医2人が診療を担当。連携先の医療機関にも診療体制を周知し、互いに患者を紹介し合ってフォローする仕組みを整える。野ツ俣医師は「NASHの患者を的確に拾い上げ、早期治療に結びつけていきたい」と話す。◆脂肪肝に潜むリスク、正しい意識への契機に 肝疾患は日常的な飲酒過多やウイルスによるもの、というイメージが根強いかもしれない。しかし、県済生会病院の野ツ俣医師は「脂肪肝に潜むリスクを正しく意識してもらうきっかけにもしたい」と専門外来開設の狙いを示す。 脂肪肝を防ぐには適度なカロリーで栄養バランスの取れた食事を心掛け、体力に応じた有酸素運動や筋トレが大切だ。健康診断などの血液検査で肝機能を示す数値に異常があれば「かかりつけ医でエコー検査などを受けてほしい」と野ツ俣医師。肥満でない人や未成年でも脂肪肝が見つかるケースもあるため、肝機能の数値は常にチェックが必要だという。 同病院は県内唯一の「肝疾患診療連携拠点病院」で、看護師や栄養士、理学療法士ら35人が県知事認定の「肝炎医療コーディネーター」になっている。従来はウイルス性肝炎の検査・受診勧奨などが中心だったが、脂肪肝外来の開設によってその役割は広がる。 看護師で肝炎医療コーディネーターの橋本まさみさんは「『普段お酒を飲まないから大丈夫』『肥満じゃないから脂肪肝とは無縁』と誤解している人や、健診などで脂肪肝を指摘された人に専門外来があれば受診を勧めやすくなる。脂肪肝に関する啓発活動や、受診後のフォローに努めていきたい」と話している。
福井新聞社